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2005年01月23日

『家族ゲーム』『(ハル)』森田芳光

 塚本晋也長崎俊一石井聰互などPFF系の監督について書きましたが、忘れてはならないのが鬼才森田芳光監督です。
 長崎俊一『ユキがロックを棄てた夏』と同じ1978年、『ライブイン茅ヶ崎』という8ミリでPFFの舞台に躍り出ました。こちらに過去作品の一覧があるのですが、こうして見ると蒼々たる面々がそろっていたのがわかります。

 森田芳光監督作品で、一般の方が一番ご存知なのは『失楽園』でしょう。最近作ですと伊東美咲主演による『海猫』です。ですが、はっきり言って例によって両方見ていません。うんざりするくらいメインストリームと趣味がすれ違っているようです。
 絶対に見なさい!というものは、何と言っても『家族ゲーム』です。
『家族ゲーム』 森田芳光 1983
 映画ファン、特に自主映画系の人でこの作品を知らないという方はいないでしょう。わたしも相当影響されました。確かテレビドラマにもなったのでそちらの方が有名なのかもしれませんが、作品的には関係ないでしょう。松田優作主演による伝説的ブラック・ホームドラマです。ちなみに、助監督には平成『ガメラ』シリーズで有名な金子修介監督がクレジットされています。
 いじめや校内暴力、受験戦争などの話題が流行りだった時代に作られた作品ですが、こんな社会問題自体はおそらく監督の眼中にもなかったことでしょう。物語としては、松田優作扮する四流大学出身の家庭教師が家族に入り込み、無機質化した家庭を混乱させつつ、次第にその真実を暴いていく、というものです。
 低予算で、派手なシーンはまったくありません。音楽もほとんど使われていなかったと思います。淡々と冷たく展開していくのですが、抑えに抑えた松田優作の演技と相まって、皮膚の下にある熱い矛盾と憤りが析出されてきます。
 そして何より、あらゆる画面が計算され尽くされています。
 森田芳光の魅力はここに尽きます。キャメラも優秀だったのでしょうが、様々な作品で、まったく異なるアプローチをしながらなおかつ計算を持続させているのは、監督自身に撮影監督的天才が宿っているからでしょう。というより、自主映画系出身者ならそうでないと勤まらなかったはずです。
 前景に配置されるパチンコ球が転がり落ちるようなおもちゃ、夕暮れの運河を渡る舟に一人立つ松田優作、そして有名すぎる横一列に並んだ食事風景。映画好きの若者で、これらのショットに感じるものがなければ、もう映画を撮るのをやめて欲しいです。とにかく、すべての画面に隙がありません。
 ラストも非常に秀逸です。
 物語的なエンディングとしても最高に「正しい」のですが、あのそれなりに長いシーンは1シーン1カットで撮られているのです。意外と気づいていない人が多いのではないでしょうか。それくらい自然な長回しです。
 自然というのは、あのシーンが「自然な風景」だというわけではありません。横一列と同様、異常なものが異常な撮られ方をするのが「自然」なのです。たゆとうような眠りの場面が、人物にあわせてゆっくりと移動する視点でとらえられ、あたかも臆病なキャメラというもう一つの不気味な生き物が室内を漂っているかのようです。特に人物にあわせてトラックバックする感じが、いかにもうすら寒くて目が離せません。一度ご覧になられた方も、次はじっくりあの動きを観察してみて下さい。

 森田芳光の恐ろしいところは、『家族ゲーム』のようないかにも「濃い」映画ファンの喜ぶ作品も撮れば、ほとんど媚びているとしか思えないような通俗的映画も作ってしまうところです。そしておそらく、監督本人にとっては違いなどないのです。
 ただこだわりにしがみついて偏執的なキャメラ技法を極めているのではなく、その気になれば稠密画のような映像を作れながら、求めに応じて引き出しを開けているようです。本当に懐の広い人なのではないかと思います。こういう「こだわりがありながらこだわりにこだわらない」人にはいつも惹かれます。

『39 刑法第三十九条』 森田芳光 1999

猟奇的な夫婦殺害事件が発生し、劇団員の柴田真樹(堤真一)が逮捕される。彼は殺害こそ認めるものの、殺意は否定。殺害当時の記憶はなかったと主張する。そして裁判中、人格が豹変したことから、司法精神鑑定が請求される。
鑑定人・藤代実行(杉浦直樹)は、柴田が犯行時に精神が乖離状態で心神喪失していたと鑑定するが、鑑定助手の小川香深(鈴木京香)は、別の結論を確信し再鑑定に動き出す。多重人格の容疑者と、その精神の奥底に迫る鑑定者。徐々に事件の奥に潜む真実が明らかになっていく……。
 鈴木京香主演のこの映画は、ご存知の方も多いと思うのですが、ジャケからしてなんだかパクリっぽいです(笑)。映画自体としてもそれなりに面白いのですが、「じゃあ次サイコサスペンスで」と言われてサクッと作れてしまった匂いもあります。
 ブラッド・ピットの『セブン』で有名な「銀残し」という現像法が使われていて話題になりました。ちょっとやり過ぎなくらいなのですが、これを押し通してしまうところに監督の凄みがあります。「最近銀残しにハマってさー」みたいなノリでやっていそうなところが恐いです(すいません)。

『(ハル)』 森田芳光 1996
 今見るととても懐かしい世界です。「パソコン通信」時代のネット恋愛ストーリーです。思い入れのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 森田芳光はいつも道具立てが素晴らしく、この映画で言えば新幹線で通り過ぎるときのビデオカメラがそれに当たります。物語的必然性、映像的面白みが、きちんとシンクロしているのです(自主系は後者だけ、キャメラを知らない演出系は前者だけで突っ走ってしまったりしますよねw)。
 高層ビルの中の場面を、ビルの外の空中からの視点で撮っているシーンが印象深いです。画面上は人と人の間に柱が映り込む設計になっていて、ベタな言い方をすれば「心象風景を反映」しているのでしょうが、純粋に画面として美しいです。
 しかもこのシーンは、確かイマジナリー・ラインが無視されていたと思います。イマジナリー・ラインというのは、二人の人物を結ぶ想定線のことで、原則としてキャメラがこれをまたぐカット割りはしてはいけないことになっています。対角に横切ると割と自然に流れてしまうのですが、それ以外ですと編集した後で「これつながんないじゃん!」となるからです。

 どうやって撮ったの??という画面では、藤子・F・不二雄原作による『未来の想い出』の校庭を横切る飛行機の陰もあります。はっきり言って、物語的には全然面白くなかったのですが、あのシーンだけは未だに気になっています。

 それにしても、これだけ映画のことを書きながら、最近見たのは『ヴィタール』くらいです。事実上丸一日休める日がない生活なのですが、面白い映画があったら誰か連れ出して欲しいです。実は出不精なので(笑)。


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