塚本晋也と金属のエロティシズム
突然ですが、金属はエロいです。
いえ、人並みにふわふわほんにゃらなものも好きなのですが、安心ではなくエロさとなると、あの金属の暴力性に勝るものはそうありません。「恋愛的なもの」と「エロティックなもの」というのは、悲しいことに必ずしもベクトルが一致していないと思うのですが(特に男子)、金属はエロ担当です。
金属のエロティシズムと言えば、すぐに連想するのが塚本晋也です。
『鉄男』 塚本晋也1989
言わずと知れた塚本晋也メジャー第一作です。主演は田口トモロヲ。PFF出身だけあって、パラノイア的コマ撮りはどう考えても自主映画のノリです。無機質なセックス&ヴァイオレンスの美学で、この作品の右に出るものはそうないのではないかと思います。ひたすら白黒コマ撮りバトル、音声の八割くらいが田口トモロヲのハァハァいう吐息です。
ちなみに、どこかで監督が言っていたセリフに「コマ撮りは一コマくらい露出間違えてもわからないからイイ」というのがあって、これにも惚れました。
『鉄男II THE BODY HAMMER』 塚本晋也1992
2があります。
こんな映画で続編を出してしまうところが素晴らしいです。言うまでもなく、『鉄男』と同じものを期待したら死ぬほど裏切られます。何せ今度はカラーです。元々破綻しまくった作品に無理矢理2をくっつけたのですから、監督自身計算尽くでしょう。最後の戦車には素直にウケて良いと思います。「やり過ぎ」をさらにやり過ぎたのがボディ・ハンマーです。
「息子を誘拐された男が憎悪によって自ら金属の兵器となり、息子をとり戻そうと暴れまわる」と解説にあったのですが、全然記憶になく、ストーリーを追う映画ではありません。ただ塚本晋也に通底する、この「人間が機械化して人間的モチーフを追求する」というコンセプトは、安部公房の『R62号の発明』にも通じる核心的テーマと言えます。
ちなみに、わたしの『シド切断』にも通底していると思うのですが、誰もツッコんでくれません。
『東京フィスト』 塚本晋也1995
肉弾戦ボクシング版。もちろん、普通のボクシングなど期待してはだめで、道具立ての一つだと思って下さい。主演が監督とその実弟、という血の濃い作品です。
塚本晋也の世界は、「機械文明から肉体へ」などというナイーヴな図式では決してなく、肉体は肉体のままではそれ自体を表現できない、というディレンマを反映したものです。これを迂回するためにこそ、肉体は一度機械化し、その中で人間のままでは達成できなかった「人間的なもの」をほとばしらせるのです。
都会の真ん中のボロアパートの前で、二階の部屋に向かって「セックスしてんじゃねぇよ……セックスしてんじゃねえよ!!」という場面が異様に印象に残っています。
『バレット・バレエ』 塚本晋也2000
金属映画拳銃版です。『鉄男』に先祖帰りしたようなところがあり、すごく良い印象があるのですが、なぜかディテールが全然思い出せません。すいません。『双生児』と同時期に撮られていて、バランスを取っていたのかな、などと想像します。
ただ、塚本晋也という人は、拳銃やナイフといった具体的金属物のモチーフを使わない方が、よりうまく行くように思います。彼の世界は、人間が無機物になる、あるいは世界が無機質化するものであって、その世界の中にわかりやすい金属表象が入ってしまうと、かえって勢いが削げてしまう気がするのです。
『ヒルコ 妖怪ハンター』 塚本晋也1991
忘れてはいけません、沢田研二主演の初期作品! 塚本晋也の作品には、『鉄男』の線上に並ぶ無機物系と、肉っぽい有機物系のものがあると思うのですが、これは有機系です。個人的には好きな表現ではないのですが、この作品は面白いです。バカバカしいのかシリアスに反応すべきなのだかわからないところが素敵です。「ここで笑え」みたいなマークのついているハリウッド映画に辟易している方にお勧めです。
塚本晋也の主演男優の選び方は、いつもエロのツボを抑えすぎているのですが、ジュリーも最高です。
沢田研二主演映画と言えば『太陽を盗んだ男』です。絶対見て下さい。損はさせません。というか、この映画が嫌いな人なんかと友達になれません! ヘリから堕ちても死なない菅原文太にも大注目です。
『双生児』 塚本晋也1999
本木雅弘主演による2000年の作品です。「有機系」塚本晋也の真骨頂でしょう。
アート系のわたしの知人は絶賛していたのですが、わたしにはそこまでキませんでした。多分奇麗すぎるのだと思います。美学は求めているのですが、どこか汚れた男くさいものがないとなかなか惚れられないのです。
「カラーなんて塚本晋也じゃない」と信じているファンもいるでしょう。そこまでは言いませんが、色使いについてはあまり好きになれません。『鉄男II』の青などは狙ってチープなのでしょうが、どうも絵筆に夢中になっている感じが否めません。白黒のうまい人がカラーを撮ると、カラーということを意識しすぎてしまう傾向があるように感じます。
純粋に耽美的なものを求めている方にはぴったりでしょう。ちなみに、本木雅弘もラヴです。
昔のものには詳しくても、新しいものにはいつも乗り遅れる石倉、『六月の蛇』も見ていません。どうですか? 面白かったですか?
と言っている間に『ヴィタール』の公開が始まっています。新宿K's cinemaと渋谷アミューズCQNで上映中。主演浅野忠信、キャスティングの中には岸部一徳、と利重剛の名前があれば、服を売ってでも見に行かないといけません。焦ります。
ちなみに『ヴィタール』はFinalcut Proで編集しているみたいですね。塚本晋也がノンリニア。世の中変わりましたね……。
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「そういえば私、六月の蛇、DVD持ってる!あれ?でも見た記憶ない。」
そう思い、今さっき、ディスク入れてみたんですけど、読みませんでした。買ったのに見れなかった口です。中国じゃよくあることです。
さすが中国! 見られるディスクゲットしたら、エントリ立てて下さい(笑)
Posted by: ゆ at 2005年01月12日 21:34