アクセス解析
2005年01月09日

『ヴィタール』塚本晋也

 「塚本晋也と金属のエロティシズム」で触れた塚本監督の最新作『ヴィタール』を見てきました。

 主演は浅野忠信、バレエ界の新星・柄本奈美とモデルのKIKI、そして脇を固めるのは串田和美、國村隼、岸部一徳と、キャスティングも注目です。事故で記憶喪失に陥った医学生が、解剖のプロセスを辿るうちに、亡き恋人を巡る記憶とも死後ともつかないヴィジョンに引き込まれていく物語です。
 初めに総合評価を下してしまうと、正直あまり良い点数をつけたいとは思いません。内臓を揺さぶるような塚本ワールドを期待しては裏切られますし、一方でサイコ・サスペンス的緊張感があるわけでもなく、ストーリー的にも説明的に過ぎて引き込む力が強いとは言えません。塚本監督の良さは、コンセプトがパラノイア的な映像技術と音声に取り憑いて表現されるところにあるのですが、どうも観念先行で作られてしまった感が否めません。
 オープニングと中盤で表れる煙突の場面は、オールドファンにはたまらない「塚本節」なのですが(完全に狙った「サービス」でしょう)、その他の表現はそれぞれ工夫が見られるものの、目新しさや圧倒的なパワーはありません。大学の古い建築物、朽ち果てたような部屋、ヒッチコックのような色遣いの沖縄の森、どれも魅力的ではありますが、内から否応もなく発せられたというよりは、引用的な印象を拭えないのです。
 別段「いかにも塚本晋也」を演じる必要もなく、媚びてはいけないと思うのですが、できればもう少し衝撃的な裏切り方をして欲しかったです。塚本晋也も浅野忠信も大好きなのですが、このマッチングもあまり良いとは言えないように思います。
 もちろん、グッとくるものもあります。
 注目したいのは柄本奈美です。この人に関する予備知識もなく、「異業種から面白さで引っ張って来たのかな」くらいにしか思っていなかったのですが、バレエダンサーならではの不意をつくような本物の挙動には、塚本ワールドと非常に相性が良いものがあるのです。独特の低音の効いたSE遣いと実に良く合います。オールドファン的には、塚本節の匂いは浅野忠信より柄本奈美に感じてしまいます。一般に、男性で成功した表現を女性で繰り返そうとしたものには失敗する傾向があると思うのですが、彼女を前面に立ててもう一作撮ってもらえたら、素晴らしいものが出来上がる予感があります。というか今、やってみたいネタを沢山妄想してしまっています(笑)。
 浅野忠信で非常に良かったのは、振り返って「まだまだこれからですよ」という時の笑顔です。圧倒的です。この人の笑顔はいつ見ても本当に恐ろしいのですが、そのグロテスクぶりが遺憾なく発揮されています。決して悪く言っているのではなく、笑顔というものが本質的に備えた欺瞞性と攻撃性というものを、これほど的確に表現できるアクターは他にいないのではないかと思います。

 自信を持って「見て下さい!」とはちょっと言えないのですが、随所にハッとするものが埋め込まれた作品です。


関連記事:「塚本晋也と金属のエロティシズム」

PR:ネットで予約! 宅配DVDレンタルTSUTAYA DISCASなら延滞金ゼロで見放題!

TrackBack



『ヴィタール』塚本晋也

前の記事:NT海上輸送とイルカのお引越し
次の記事:『ユキがロックを棄てた夏』長崎俊一
この記事と同一のカテゴリ:映画 マンガ サブカル
このブログの最新記事
Comments
Post a comment









Remember personal info?