山手線の収納式座席
朝の山手線に乗っていて、時々感じることがあります。
ラッシュ時間帯は収納式になっている座席の前にうまいことポジショニングできると、あの上にバッグを置くことができます。座席中央あたりだと、丁度窓に向かって立つ形になります。
大抵三人くらいが並んで壁に向かうのですが、この風景は端から見るとかなり異様です。
何もない電車の壁に向かって鞄だけなんとか畳んだ座席に上に乗せて、ほっと一息ついているサラリーマン。窓に向かっていると少しは良いかというと、実にその風景が寂しそうです。人間を見るのが嫌で嫌で、それくらいなら窓に張り付いてるほうがマシ、といった感じがにじみ出ています。
日本人のわたしでも気付くくらいですから、きっと日本に初めて来た外国人にはかなり不気味に映っているのではないかと思います。
ずっと以前にパリで小津安二郎の映画を見ていた時です。確か『お茶漬けの味』だったと思うのですが、壁に向かったカウンターで、ラーメンをすすっているシーンがあります。安いラーメン屋さんなどではよくある風景です。
これを見たフランス人が、劇場で大爆笑しているのです。当然、日本人的には笑うシーンではありません。彼らは劇場でもかなりおおっぴらに感情表現をするのですが、それにしても笑いすぎです。一人で食事をする、ということだけでも多くの国の人にとっては気味が悪いようですが、壁に向かってラーメンをすするとなると、カルト宗教か何かにでも見えるのかもしれません。
確かに、寂しい景色ではあります。
だからといって、批判しようというつもりはありません。日本の企業戦士はそうやってエンプティ・カロリーを摂取して、今日も欧米列強と戦ってくれているのです。帝国主義先進国の「ワル卒業」みたいなヤツらに余裕ぶられる筋合いなどありません。
畳んだシートの前で鞄を置ける安らぎだって、実にありがたいものです。「人の顔を見るのが嫌なみたい」と言われるかもしれませんが、本当に嫌なのだから結構なことです。
パリの地下鉄ラッシュは、日本に比べればまったく問題にならない隙具合なのですが、それでも慌てて乗り込もうとして「無理だ、次の電車にしろ!」と怒鳴られたことがあります。ああいう白人どもには、一度朝の京王線や西部新宿線を体験させてやりたいものです。いえ、あちらの国のやり方に文句を言う権利もないのですけれど。
そう言いつつ、郊外通勤者の感覚では「ガラ空き」な山手線ラッシュを「キツい」と表現した池袋在住の友人には、少し嫉妬を覚えたのでした……。
トレイン・シミュレータ JR東日本 山手線内回り CD-ROM
山手線のハイビジョンDVDももうすぐ発売らしいです。好きな人にはたまらないのでしょうねぇ。「渋谷からの外回り線E231系による展望映像を、臨場感溢れるデジタルハイビジョン撮影で送る高画質映像作品」とのことです。
あの座席が「今から開いてもいいよ」という瞬間に出くわしたことがあります。とても整然としたものでした。
混んでいる車内でも平気で折り畳み椅子に座ってるパリのババアなんかよりよっぽど皆さんスマートでした。
そういう瞬間体験っていいですね。
というか、みんな疲れてて抗う元気がないだけのような(笑)。