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2005年01月14日

『インディヴィジュアル・プロジェクション』 阿部和重

 PFF系の映画作家のことをさんざん書いたので、ついでといっては何ですが、一冊本を紹介しておきます。
『インディヴィジュアル・プロジェクション』 阿部和重 新潮文庫 380円

 阿部和重のことは、現代思想系の大学人たちがみんな褒めるのであまり取り上げたくないのですが(笑)、確かに面白く、かつ読む値打ちがあります。
 どうしてこれが映画ネタに続いて?と思われるかもしれませんが、阿部和重さんは日本映画学校の出身、元映画人なのです。この作品の主人公も映写技師、そして作品全体が一つの映写=プロジェクションとして重層的に展開していきます。息つく暇もないような素晴らしく緊張感のある構成ですが、その辺りは読んでのお楽しみ。内容にも文体にも映画人の薫りが漂っています。
 ここしばらくで取り上げてきたような映画作家さんがお好きな方なら、間違いなく楽しめるでしょう。加えて、このブログを読んでいるような濃い方なら保証付きです(笑)。

 阿部和重の他の作品にも、映画的要素が色濃く漂っています。『アメリカの夜』などはタイトルからしてそのものです。思想系の人々は『ABC戦争』を推しますが、わたしが『インディヴィジュアル・プロジェクション』とならんで推薦したいのは『無情の世界』です。ファミリーレストランでのオヤジと主人公の会話の場面がとても印象に残っています。乾燥しながらも生々しい暴力描写を楽しんで下さい。損はさせません。
 というか、今調べたらことごとく文庫になっていて、全部ハードカバーで持っているわたしが損した気分です(笑)。

 ちなみに、今回気づいたのですが、こういう本が出ています。
『青山真治と阿部和重と中原昌也のシネコン! 』 リトルモア 1,575円
 あまり映画本の類は読まないのですが、この三人のメンツでは読まないわけにいかなささそうです。特に中原昌也さん! 現代の若手作家でわたしが最も期待したのがこの人物です。彼のことは、近いうちに別にエントリを設けて書きます。同じ雑誌に載ったこともある割に、わたしの方はさっぱりなことだけ納得できません(笑)。
 どうでもいいですが、中原昌也さんはいつお写真を拝見しても肌のツヤが悪そうで、ちゃんと食べているのか心配です。

 それにしても、こんな風に本や映画を公に薦めている自分に驚きます。丸くなったものです。かつてのわたしだったら、一々ケンカ腰で考えられませんでした。
 これからはしがない一映画ファンとして市井を生きたいものです。というか、「純粋に客として楽しむ」という立場がこれほど楽で気持ちの落ち着くものとは、全然知りませんでした。
 VIVA大衆です。

追記:阿部和重さん、芥川賞を受賞されたようですね。このエントリを書いた時点では全然知りませんでした。すごいタイミングです。とりあえずおめでとうございます。

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Comments

はじめまして。
安部和重さんとうとう芥川賞作家になってしまいましたね。
たしかにおもしろいです。
中原昌也もそうですが、ちょっとまえまではアンダーグラウンド的なジャンルの人達も、今となっては表舞台にでてくるような環境になってきたのだなぁと感じました。
ちょっと寂しい気もしますが。。
『インディビジュアル・プロジェクション』の表紙の写真って常盤響さんなんですよね。
a.o.aってまだあるのかなぁ、、

Posted by: takehiro at 2005年01月16日 02:22

阿部さんがメジャーになったというより、芥川賞がサブカル化しているのかもしれませんね(笑)。もちろん、それはそれで結構なことですが。

Posted by: at 2005年01月19日 22:52
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